春から始まった一年が、新しい春の訪れとともに終わりました。桜のつぼみも膨らんで、また新しい一年が始まります。とても嬉しいことです。
長い間幼稚園で働いていて思うのは、同じ一年は一度もない、ということです。あたりまえのことなのですが、そのことをことさら意識するかしないかで、生き方も働き方も人とのかかわりもすべて違ってくると思っています。
たとえば、同じ一年はないとしても、幼稚園という幼児教育の場で、全て同じことを同じやり方で繰り返すことは簡単にできます。たとえもっと良い方法や教材があって、いくらでも環境を改善できる、としてもです。
同じ一年はない。一年が終わるこの時期に心を引き締めて、同時に新しい年度に大きく期待しながら、短い春を満喫したいと思っています。
さて、最近、「食育」という言葉について改めて考える機会がありました。検索すればすぐに食育とはこういうことですよ、という文章も動画も出てくると思いますが、ここでは、私が考える食育について、書いてみます。
幼稚園での食育を、食べ物を使って何かすること、と捉えている園も見受けられ、首をかしげる機会が何度かありました。
例えば、カップに市販のコーンフレークとアイスクリームと生クリームを交互に入れてチョコスプレーをかけたらパフェができます。簡単に作れておいしいし楽しいと思います。近所で採れた果物を飾れば地域の農業を知る機会にもなるでしょう。準備やエプロンを自分で身に付けるなどの経験もできます。
食を通じて自分の住む地域や世界を知ることもできますから、食育の概念はどこまでも広く捉えることができます。
でも、肝心なのは、幼稚園でやらなければならない食育です。人生100年時代を生きる人間の育ちの根っこを太く長くするための食育とは何をすればいいのか。
私は、「食育とは食で人を育てること」だと捉えています。育てたいものとは、「自分の夢を叶える努力ができる人間に育つための、幼児期の身体と心」です。それは、自分の体に必要でかつ安全な食を自ら選ぶ力を育てることでもあります。
そのために幼稚園できることは、その時に子どもが置かれている環境において、体に必要な安全でおいしいごはんを提供してしっかり食べてもらうこと。それが、私が考える「食育」です。
幼稚園内に厨房を作って給食を提供しようと準備を始めたのが、原発事故から1年が過ぎた頃でした。家庭の食生活が変化し、おかずに家庭の味が一品もない、というお弁当も珍しくない時代になっていたことに加え、放射線被害による食材への不安と体への悪影響という、食育=食で育てる、ということを家庭はもちろん、もはや政治でも難しい状況でした。
避難者続出で園児も減少し先もどうなるかわからない状況でもありました。相当な資金も必要でしたので、悩みましたが、故須田正男園長と相談して、安全でおいしくて体に良い昼食を幼稚園という教育の場で今すぐに提供しなければ、と決断しました。
そして、平成25年の春、厨房が完成しました。福島わかば幼稚園は、福島市の私立幼稚園初の、園内厨房を完備して給食提供する幼稚園となったのです。
当時は放射線の心配があったので、県外の食材を使っていました。
放射線デトックスに良いとされる味噌や、納豆、塩麴などの発酵食品を多く取り入れ、雑穀の入ったご飯や、10種類の具材が入った具沢山汁、日本の伝統行事や二十四節気にちなんだ料理、日本各地の郷土料理、豆や黒糖を使ったデザート、乳製品よりも野菜でカルシウムがとれるようにし、添加物の多い加工食品は使用しないで、ハンバーグなどもすべて園内で手作りしてもらっています。そして、家庭で食べる頻度の高いパンはあえて提供しないことにしました。
アレルギーの心配から、途中で給食としては提供できないとされてしまった食材もありますが、委託会社への提案と厨房との相談を繰り返して、上記のような内容の食を提供し、食で人を育てる教育を継続しています。
さて、お昼ご飯の一食を幼稚園の教育として担うとして、あとの二食は家族の笑顔と共に、お手伝いもしてもらいながら、賑やかに食卓を囲んでいただければと思います。
それが、家庭での最良で最強の食育であることは間違いないでしょう。
アート教育であらゆる角度からものを見て思考する力を育て、食育で自ら食を選ぶ力を育てます。
アート教育と食育を筆頭に、今年は頭の中の楽しい企画をどんどん実現して行きます。